emilyroom’s diary

徒然なるままにブログ

続 岸恵子語録 Keiko Kisi

ジャーナリストでもある岸恵子さん。

あと少し、紹介したい箇所がありました。

 

ポーランドの子供とユダヤの子供の話です。

 

   「孤独という道づれ」(幻冬舎文庫

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

パリでの親友の一人娘

 その子は美しい子だったのに、引きこもりで、勉強も出来ず、友達もいなかった。

 

 彼女一家は、財産も地位もある純粋なユダヤ人だった。

 

 親友の両親もその夫の両親も、ナチス・ドイツの毒牙に掛かって、アウシュビッツガス室で虐殺されている。

 

 それらの理不尽な歴史が、少女の心の中に癒しえぬ暗い翳りを落としているのだろうか、いつ会ってもひっそりとさびしそうな様子に胸が痛んだ。

 

 その子が18歳になったとき、両親が、

「欲しいものはどんなものでも買ってあげる」

 と提案した。

 暫く沈黙した後で彼女がきっぱりと言った。

「鼻を直したい、普通の人の鼻にしたい」

 

「もともときれいだけれど、中でもいちばん魅力的なあの鼻を直すなんて!」

 

 それはユダヤ人独特の、プロフィールから見ると、鼻梁が上のほうでちょっと折れるように曲がった、わたしの好みから言えば、そのバランスが微妙な色っぽさを醸し出している特徴なのだった。

 

 彼女の母、つまりわたしの心の友ともいえる女性がわたしをじっと見つめた。

 

「ケイコには分からないわ。ユダヤ人になったことのないあなたには……」

 私は黙った。

 

 鼻を「普通」にした彼女の顔は、きれいではあるけれど、どこにでもいる普通の美人になってしまって、つまらなかった。

 

 けれど、わたしが驚嘆したのは、鼻を「普通」にした彼女が豹変したことだった。

 

 明るくなり、社交的になり、勉強に興味が湧き、クラスで一、ニを争う成績を取り、ボーイフレンドに囲まれる存在になつた。

 今では素敵な夫と、子沢山に恵まれたしあわせな女盛りを生きている。

 

・・・・・

 

ウクライナ

 

 今、西側諸国はウクライナの難民であふれている。 

 ……

   十歳にも満たない男の子が、リュックサックひとつを背負ってわんわん泣きながら歩いている。

 母親は、病人の看護があるので、男の子を一人で一○○○キロメートルも離れた隣国の知り合いのもとに避難させようと思った、とコメントがあった。

… カメラが顔のアップになると、沈黙がつづいた少年の唇が震えわななき、眼から大粒の涙が溢れた。

 掠れた声で途切れ途切れに「死にたく……ない……」と言った。

 他の群れから離れてひとりぼっちで歩くその子は、疲れ果てたのか、背負っていたリュックを引きずりわんわんと泣きながら何十日歩いたのだろう。

 その映像が私の胸を潰していた。

 

 何日か後、TVで

 母親に抱かれた少年が、まあるい顔がはち切れるほどの笑顔で映っていた。

 ひとりぼっちでわんわん泣きながら歩いていた少年だった。

 病人がよくなってポーランドに辿り着いた母と子の幸せな姿だった。

 

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今の世界情勢の一端です。

でも、重た過ぎる現実です。

 

 

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パリのおばあさんの物語